認知症の症状

幻覚
おかしいなと感じたら、まず最寄りの医療機関へいってみましょう。

対象が実際にはその場にないのに、あるように感じることをいいます。このとき、ものを感じる身体の部分自体には異常がないことを前提とします。例えば、音を感じる身体の部分(耳と音が伝わる器官)のどこかに病気があって、「地虫の鳴くような音がする」というのは幻覚(幻聴)ではありません。

幻覚は、身体のどこでそれを感じるかに対応して、以下の5つに分類されます。

  1. 幻視

    その場にないはずの、実在しないはずのものが見える

  2. 幻聴

    その場で聞こえないはずの、実在しないはずの音や声が聞こえる
    外からの音だけでなく、頭の中で直接聞こえるといった場合もある

  3. 幻嗅

    その場にないはずの臭いがする

  4. 幻味

    口の中に何もないはずなのに、何かの味を感じる

  5. 幻触・体感幻覚

    何も触っていないのに、何かに触られている感じがする
    身体の一部だけが熱い(冷たい)などと感じる
    本来感覚を意識することのない身体の部分(血管、脳など)に、異様な感じがする

次に、認知症に関連が大きい幻覚(幻視、幻聴、体感幻覚)についてもう少し説明します。

幻視

普段、見えているものをいちいち言葉にしないように、動作や表情を見ていて不思議に思い、よく話を聞いてみると幻視だった、と周りの人が気づくこともあります。例えば、

  • 誰もいないのに、まるで目の前に誰かいるように話している(独り言とは違い、視線が「見えている人」に向けられている)
  • 「よく人が訪ねてくる」と言うので不思議に思い、話を聞いてみると玄関モニターの画面を見ていて、「ほら今、人が通ったでしょう」という
  • ほうきや杖を振り回して何か叫んでいるので、話を聞いてみると「ほら、そこにいっぱいいるじゃない」という(追い払おうとしている)
  • 部屋の隅ばかり見ているので、話を聞いてみると「そこにトラがいるのよ」という
  • 足が悪いのに、しきりに窓の方へ行こうとするので話を聞いてみると「窓の外、ほら、となりの家の屋根の上に小さな人がいるんだよ」という(カーテンを閉めて部屋の中を見られないようにしよう、としている)
  • 部屋の一方を見ながらニコニコしているので、話を聞いてみると「小さな子どもが部屋の中で走り回っているよ、可愛いねぇ」という

などということがあります。

幻聴

耳障りな音の場合は、「うるさくて仕方ない」など本人の話から分かる場合があります。また、幻聴があるときには険しい表情になる、といったことで周囲の人が気づくこともあります。 例えば、

  • 食事中、皆で話しているのに、一人だけ窓の方ばかり見て食が進まないので声をかけると 「向こうで鐘の音がずっとしているから気になって、食事どころじゃないわよ」という (実際には鐘の音はしない)
  • 日中うとうとすることが多くなってきたので、よく話を聞いてみると 「夜中になると天井裏をネズミが走り回ってうるさくて、よく眠れない」という (実際にはネズミはいない)

などということがあります。

幻触・体感幻覚

身体や皮膚に感じたものが心地よいものでない場合が多く、「気持ち悪い」といった本人の話から分かる場合があります。また、感じているものが気になる仕草をしていることで、周囲の人が気づくこともあります。 例えば、

  • ずっと手の甲や腕をつまむような仕草を繰り返しているので、話を聞いてみると 「ここら辺から糸みたいなものが出てくるから抜いている」という(幻視と幻触)
  • 発熱や打撲等の原因があるわけでもないのに、毎日おでこに湿布を貼っているので、話を聞いてみると 「ここだけ燃えるように熱くなってしまうから冷やしている」という
  • 眉をひそめて、すねやふくらはぎ、腕などを叩き出したので、話を聞いてみると 「ムカデが這いずりまわっているような感じがする」という

などということがあります。

私たちは今、目に見えたり感じてたりしているものは当然実在する、と信じて生活しています。そこで、もし横にいる人が「そんなものはないよ」と言ったら…おそらく、自分は正しくて相手がどうかしてる、と思うでしょう。でも、更にもっと大勢の人が「そんなものはないよ」と言ったら…周囲の人たち皆がおかしくなったか、自分がどうかしてる、と混乱するでしょう。そもそも、横にいる人は実在しているのか?自分にとっての事実は、果たして他の人にとっても事実なのだろうか、などと考え出すと頭がおかしくなりそうですが、たいていは自他ともに同じように認識しているという前提で、何気なく生活しています。

ところで幻覚は、本人にはまぎれもない事実です。それを否定されたら、信じるべきよすがを失ってしまいます。幻覚の存在が、本人を困らせたり脅かしたりする時には一緒に追い払ったり、本人を和ませる時にはそのまま守り神になっていてもらうような「幻覚との付き合い方」が見つかると、本人も周囲の人もストレスが少なくなるのではないでしょうか。

また、幻視は視覚が関係しているので、幻視のきっかけになっていそうなものや錯覚しやすいものを除いたり、視覚に影響する光・明るさを調整してみると、少しストレスが軽減されるかもしれません。例えば、私はクモが嫌いなのですが、廊下の隅にできる影がいつもクモに見えてドキっとしていました。あまりにも毎回ドキドキして嫌なので、廊下の照明を変えて明るくしたところ、変な影がなくなり、それ以降クモ(影)にドキドキさせられることがなくなりました。このほか、カーテンがゆれる感じがふと人影のように見えたり、ベッドの足元に丸まっている毛布が飼っている犬のように見えたり…見間違えやすいもの(原因)と、見間違える対象(何に見えるか)は、もしかしたら人によって傾向があるのかもしれません。(HR)