2010.09.10更新

スマイル特別対談
なるせゆうせい vs 本間昭


今月9月15日からはじまる舞台『ヘルプマン!』を前に、医師・本間昭と、その舞台の監督である、なるせゆうせいさんの緊急対談が実現しました。お二人、お会いするのはインタビュー当日が初めてでしたが、以前本間先生は認知症ケア学会で原作者のくかささんと対談なさっていますし、なるせさんも漫画の舞台化の際、くさかさんとお会いしています。今回は『ヘルプマン!』が取り持つ縁ということで実現した対談です。

基本はヒューマニズム

本間 「はじめまして」
なるせ 「はじめまして!今日はよろしくお願いいたします」
本間 「なるせさんは、どのような経緯で漫画『ヘルプマン!』を舞台にしようと思ったの?」
なるせ 「知り合いから、こんな漫画があるよと言われて薦められたのが『ヘルプマン!です。読んだとき電流が走りました。読んだあとは泣きました。多くの人に広めたい!知ってほしい!舞台化したい!と思ったので、もう、その思いのまま、勢いで発刊元の講談社に電話、直談判しました。(原作者の)くさか先生にもご連絡さし上げて、説明して。そしてあれよあれよと言う間に舞台化させてもらえる事になったというわけなんです。」
本間 「なるほどね」
なるせ 「くさか先生からも、この漫画は介護をテーマにしているけれども、根本はヒューマンドラマであると。そこを伝えたくて描いているんだと。舞台化する上で僕もそこを大切にしました」
本間 「どんな職種でも、それは基本ですよね。ヒューマニズム。人間味。」
なるせ 「はい、そう思います。本間先生のおっしゃる通りです」
本間 「舞台化するまでは、介護(職)に対して、どんなイメージをもってましたか?」
なるせ 「堅苦しいというか、まず知識がバリバリにないとできないとか、そんなイメージがありました」

介護職に希望を。がんばりが見えるように

本間 「いま、介護職の離職率は非常に高いわけです。介護職のみんなはがんばっているんですが、仕事の効果というか結果というか成果が、とても見えにくい状況にある。評価されにくい状態にあるんです」
なるせ 「そうみたいですね。(なるせさんは舞台化に際し、さまざまな介護・福祉施設に足を運び、要介護者の方と旅行を共にするなど実体験を重ねて舞台化に臨みました)」
本間 「それを、もっと“見える化”というか、見えるカタチにしてあげたいですね。広くわからせること、伝えることができればいいですよね。そうすれば現場のモチベーションはもっと上がると思うんです」
なるせ 「本間先生は漫画『ヘルプマン!』を読んで、いかがでしたか?」
本間 「さまざまな登場人物が、それぞれの立場の中で、よく描けているなと思いました」
なるせ 「ですよね。介護する側、される側。僕は舞台で物語を多角的に描いていきたいと思っているんです。誰かが悪いんじゃなくて、それぞれの立場で、それぞれの想いがあって気持ちがあって…」
本間 「実は、『ヘルプマン!』の中で描かれているような事例は、実はすでにたくさんあるんです。」
なるせ 「え!そうなんですか」
本間 「はい。教科書や資料などでね。でも『ヘルプマン!』のように漫画で描かれたり、伝えられたことはなかった。これは大きい」
なるせ 「はい」
本間 「特に若い人たちには漫画の威力というものは大きいですから。わかりやすいし、共感もされやすい。」
なるせ 「確かに、僕らをはじめ、年下の年代などはもう完璧に漫画世代ですからね」
本間 「それと(くさか先生は)取材がよくできていると感心しています。よくここまで取材なさっているなぁと思いながら読んでます」
なるせ 「僕も短期間ながら現場体験をしましたが、接した際に、なかなか言葉が出てこないんですね。大変なお仕事だと改めて感じました。ご本人の気持ちに立つことも簡単にはできないことですし」

正しい専門知識を持った上で、本人視点に立つ

本間 「はい。従来から言われていることなんですが、なかなか本人の立場にたって行動することは難しい。理屈ではわかっていても実際はなかなか…。『本当はわかっていても管理上は』とか、『責任問題になるから』とか。特に最近はすぐ訴訟問題に発展したりしますから、ついつい防衛的に立ち回ってしまう。わかっていてもなかなか行動に移せなかったりする。そういう現場のジレンマですね。そこも伝えていただけるとありがたいですね」
なるせ 「はい」
本間 「大切なのは、本人の視点に立つと同時に、なぜ自分はああいう行動・言動をとってしまったのかを事後で説明できないといけないわけです。」
なるせ 「なるほど。だから知識が重要だと」
本間 「そういうことです。正しい専門知識を持った上で、本人視点に立つとかコミュニケーションを。これが重要ですね」
なるせ 「すごくよくわかります。演劇でもそうですね。昔、セリフの会話ができてない。と先輩に叱責されたことがあります。会話とはどういうものなのか、コミュニケーションとはどうあるべきなのかなどを考えさせられました」
本間 「特に認知症の方の場合だと、自分が感じたことを言葉にだして表現しづらいケースがあります。実際にはAと思っていてもBと言ってしまったりとか。そのためには、周囲の人が『本当に、Bと思っているのかな?』と想像しなきゃいけないわけですが…」
なるせ 「深いですね。役者でもそうです。行間を読むことも大切ですからね」
本間 「言葉の裏を読むって動作は、日頃からみんなしていることだと思うので、やればできることだと思うんですよ」

舞台化に期待すること

本間 「僕もときどき、寸劇を取り入れて講演することがあります。僕の場合は認知症に関してですが、患者さんの典型的な行動や症状、それに対してご家族の方が困る場面などを劇を通してお伝えするということをしています。」
なるせ 「へぇ~」
本間 「スライドを使ったリもしますが、なかなか理解されにくい。ところが、舞台で役者さんが演じてみると、たちどころにわかっていただける。『あぁ、こういうことだったのか』とか『ある!ある!これ!これ!』なんて具合にね」
なるせ 「言葉だけではわからないことって多いですよね」
本間 「もちろん我々の寸劇と、なるせさんの本格的な演劇とを比較しては失礼だろうけれども(苦笑)」
なるせ 「いえいえ(笑)。演じて伝えるという点では、いっしょですよ。」
本間 「劇は効果的ですよね。わかりやすく伝えることができますもんね」
なるせ 「はい。僕も漫画だから理解できたと思っています。そこにストーリーがあったからこそ、僕にも理解できたし、感動することができたと」
本間 「うんうん」
なるせ 「今回の舞台では、まったく介護や高齢者のことに関心のない人にも観に来てほしいですし、知ってほしい。漫画だけでなく、舞台・演劇という入り口から関心をもつ人がひとりでも増えてくれたらいいなと」
本間 「私も宣伝しますよ」
なるせ 「ありがとうございます!」

 実はこの舞台。DVDにして、くさか先生の地元・高知で上映会をすることも検討されているらしい。最後に、「舞台をつくるのは大変ですし、時間もかかります。でも、一つの作品を完成させたときの喜びを知っているから楽しいです。それをスタッフみんなで共有して全国を回ったり、地方の人と触れ合ったり。作った側も見た人たちも幸せになれたらいいなぁって思ってます」と語るなるせ監督でした。

なるせ ゆうせい プロフィール

脚本家、演出家、株式会社オフィスインベーダー代表、シナリオ作家協会会員。
1977年岐阜県出身。早稲田大学在学中に「劇団インベーダーじじい」を旗揚げ、トムプロジェクト新人脚本賞やパルテノン多摩演劇祭特別賞などを受賞。現在は映画、広告、マンガ原作など、幅広いジャンルで脚本家として活躍。